戦後間もない子ども時代、心躍らせた漫画と言えば、「地雷也(じらいや)」という忍者ものや中東の物語「シンドバットの冒険」だった。
どちらも変身もので、地雷也は、窮地に陥った時に呪文を唱えると立ちどころに自分が変身してどんな難問も解決出来るというものであり、シンドバットの冒険は、困った時にアラジンの魔法のランプを手でこすると、大男が目の前に現れて、どんな難題も解決してくれるというものだった。
人生と言う未知の世界に挑む子どもにとって、この漫画に描かれた夢物語は、不安を一掃してくれる何よりも心強い助っ人だったように思う。
この数日来、iPhoneで遊ぶ「ポケモンGO」が、世界的なニュースになっている。GPSで写し出された現実世界にあたかもそれが実際に存在するかのように登場するポケットモンスターは、不透明で危機一杯の現代社会では、昔我々が夢中になった忍者や大男の出現への期待とどこか通じるものがあるようにも思う。
ただ、かつての漫画は、それはどこまでも紙の上の虚構の物語であり、読者はそれが虚構であることを十分に心得てそれを楽しみ、そこから得る元気を現実世界を生き抜くための力として活用していたように思う。
しかし、ポケモンは、これとはかなり異なる目的を持つゲームである。そもそもこのゲームの発案者は、室内にこもりがちな現代人を外へ引っ張りだしたいと思ってこれを考えたと言われてるが、手に入れたいオモチャの怪物が、あたかも現実世界に出現したかのように錯覚させるこのゲームは、夢中になればなるほど人々の現実的な感性を失わせ、限りなく虚構の世界へと引きずり込む力を秘めているものでもある。その結果、想定外の事故や事件がすでに多く起きてもいるのだが、そうした現実以上に、これはかなりの危なさを秘めているゲームであるように思えるのだ。
これまで人間は、現実世界をどうリアルに把握出来るかで様々な知識を発展させ、情報を手に入れることに努力して来た。それが社会を成長させるエンジンだった。しかし、近年パソコンの出現によって、そうした知識や情報が限りなく現実世界を動かすようになり、現実と虚構の世界との力関係がいよいよ反転する時代になって来た。虚実混沌の情報が現実社会を大きく動かす力を持つようになり、結果、ネットによるテロリズムが実際に拡大し、ロボット開発のための人工知能がやがて人間を支配するかも知れないという心配もまた、いよいよ現実のものとなりつつある。
GPSで膨大な数の人間の行動を瞬時にコントロールし、虚構の世界に入り浸らせることで人間の現実感覚はいよいよ失われて行くに違いない。そんな悪循環をもたらす機能を秘めたポケモンの登場は、近い将来予想される虚実反転の世界の出現がいよいよ我々の日常生活で起こり始めたことを予感させている。
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