2013年9月30日月曜日

バーチャル時代の落とし穴

 iPhoneなるものが出現してもう大分になる。街に出ると、画面に首っ引きの若者たちの姿をどこでも見かける。電車の中は元より、歩き乍らも画面から目を離さない。人ごみの中だと思わずぶつかりそうになる。そんなこともおかまいなく、画面の中にのめり込む若者たち。

 これはもう大分以前の話だが、いわきでセミナーの参加者を駅まで迎えに行った帰り、車窓から田園風景を見ていた若い女性が、突然「わあ、トトロの世界みたい!」と叫んだことがあった。

 普段見慣れない田舎の風景を目にして、感激の余り思わず出た言葉だったと思うが、それを聞いた途端、私の頭の中は少々混乱した。「えっ、この風景がトトロじゃなく、トトロがこの風景のようだ!じゃないの?」と。

 改めて彼女に聴きかえしもしなかったので、その言葉の真意がどっちだったかは分からないが、私にはその発想が、現実と虚構がまったく逆転している言葉の樣に思えて、とても衝撃を受けたことを思い出す。

 きっと、彼女の頭の中にある田園風景は、現実のそれよりももっとリアルにトトロの絵の中にこそ有り、それこそが、彼女の理解する田園風景なのだろう。これはきっと、現代の多くのiphoneに夢中の若者たちの頭の中でも同じことが起きているに違いない。リアル(現実)がどんどんバーチャル(虚構)になって行き、バーチャルがますますリアルになって行っている。

 大分前から、これからの世界は、現実から虚構が生まれるのではなく、虚構の世界が、現実を創造し、コントロールして行くと言われて来た。そんな未来予測が現実のものとなり、世界の至ところに出現していることを感じる。

 東北大震災の津波に襲われた時、それぞれのとっさの判断で避難した人たちの命が救われ、マニュアルに縛られて身動きが取れなかった多くの命が失われた。災害時こそ、現実の状況に即した判断、決断、行動が求められる。襲い来る津波を背に、iphoneの画面を見乍らでは絶対に逃げられない。

 生命の危機の時代、気候異変、グローバル化の激流の中で、これまでとは想像もつかないくらいに想定外のことが起こり得るこれからの時代に、果たして、現実感覚の乏しいこうした若者たちが、とっさの出来事に対し自ら的確に判断し、行動し、生き延びて行く事ができるのだろうか?と、大いに心配になっている。シニアの年越し苦労で終わってくれれば何よりだが....。

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